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中医弁証学

序文

 教材の制作は,中医高等教育事業の基本事業の1つであり,また資質の高い人材を育成する鍵となるものである。中医学院の創立30年来,中国では全国の統一教材を制定してきたが,これは中医学理論の系統的な整理および教育の質の向上に対して,非常に良い作用を発揮してきた。しかし社会の発展につれて,中医高等教育に対してより高い要求が課された。もともとの中医教材の学科構成は,基本的に宋代以来の学科分類にもとづいたものであり,ある種の自然発生的傾向と不合理性が存在することは免れず,すでに現在の教育,臨床,科学研究のニーズに適応できなくなっている。中医学科の分化の改革は,時代のニーズに応じるべき時期にきており,また建国以来の中医学のたゆまぬ発展も,学科の分化を可能ならしめている。
 1984年,我々は全学院の教員と学生により中医基礎学科の分化問題について,真剣な討論と研究を行った。その結果,まず中医学導論,中医臓象学,中医病因病機学,中医診法学,中医弁証学,中医防治学総論,中医学術史等の新しい中医基礎学科を提案し,関連する専門家の判断をあおいだ後,本学院の専門教師を組織して中医基礎学科系列教材の執筆に着手した。このプロジェクトは衛生部中医司の指導者の支持と承認を得ることとなり,2年余の努力により現在,この一系列の教材をついに世に問う運びとなった。
 この教材シリーズは次の10学科からなる。
  『中医学導論』は主として中医学科の性質,特徴,学科体系,中医学の古代哲学基礎などの内容を紹介している。
  『中医臓象学』は主として人体の組織構造と生理機能活動の法則を論述している。
  『中医病因病機学』は主として疾病の発生の原因と変化の一般機序について述べている。
  『中医弁証学』は主として中医弁証の理論と方法について紹介している。
  『中医診法学』は主として中医の疾病診察の一般法則と方法について述べている。
  『中医防治学総論』は主として中医の疾病予防と治療の原則および方法について述べている。
  『中薬学』は主として中薬の理論と応用知識について紹介している。
  『中医方剤学』は主として方剤の組成原則と成分,効用,適応範囲について述べている。
  『中国医学史』は主として中国医薬学の起源,形成と発展の史実について述べている。
  『中医学術史』は縦横2つの方面から中医学術理論の形成と発展法則について述べている。
 我々がこの教材シリーズを執筆した主旨は,学科の性質と研究範囲にもとづき,中医薬基礎理論の知識を系統的に分化,総合することにある。内容的には歴代の中医学の精華をできるだけ総合し,現代研究の成果を反映させるように努めた。さらに全国統一教材の成功した経験を取り込み,中医薬学の特色の保持と発揚に努めることにより,教育,臨床,科学研究のニーズを満たすように努めた。
 このような中医基礎学科の分化改革という仕事は,我々にとってはまだ初歩的な試みである。いろいろな点において,問題があることは避けられないことである。多くの読者からこの教材に対しての貴重な意見をいただけることを切望する。

上海中医学院
名誉院長 王 玉 潤
院長 陸 徳 銘


まえがき

 中医弁証学の起源は『内経』にあり,『傷寒卒病論』で成熟して今日に至っている。その歴史は2000余年におよび,たえず中医学の基本的な内容の1つとされてきた。しかしながら1つの独立した学科となったのは,近年において中医学科が分化するなかにおいてである。弁証学は,1つの中医基礎学科である。この学科は中医臓象学,病因病機学,診法学を基礎にして,中医弁証の理論と方法を研究する学科であり,臨床各科の弁証論治のためのものである。
 本書は本学院が執筆した中医基礎系列教材の1つである。本書は総論と各論からなり,総論では症,証と弁証という3つの基本問題について論述しており,弁証の理論的基礎,弁証の内容と方法および弁証の綱領である八綱について詳細に論述を行った。各論は病邪弁証,病性弁証,気血陰陽弁証,病位弁証,臓腑弁証,経絡弁証,六経弁証,衛気営血弁証,三焦弁証といった内容を含んでおり,260余りの証候について論述を行った。病邪弁証から始まり,簡単な内容から複雑な内容へと論述を進め順序だって学習が行えるように配慮した。それぞれの証については,その主症,症状・所見,証状分析,本証の進行と影響,関連する証候との鑑別,弁証ポイントが紹介されている。
 本書では八綱を弁証の綱領として位置づけ,臓腑弁証の内容を充実させており,さらに奇経八脈弁証をつけ加えている。それぞれの証候の主症をはっきりと提示し,証と証との間の関係と区別を明確にしている。内容を詳細で確実なものとし,臨床の実際に符号させ,臨床で活用できるように努めた。
 弁証学という新しい教材を執筆することは,初めての試みである。その内容は複雑であり,執筆にあたって若干の誤りは避けがたいところである。読者の批評ならびに指摘を歓迎する次第である。

編 者
1987年4月